むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

「ゲゲゲの先生へ」本番どまんなか中でございます。

いつ痛みが再発するかとドキドキしていた膝痛もすっかり姿をひそめ、これも妖怪さんたちに守られてるのかしら…なんて思ったり。

本番中、ロレロレロレとセリフが危ういことになってしまっても、これも妖怪さんたちのいたずらかしら…なんて思ったり。

ケータリングにある夢のようなお菓子たちを1つに絞れずに2~3個ピックアップしてしまう時も、これも妖怪さんが食べたいのかしら…なんて思ったり。

とにかく、何かと妖怪さんをたちと責任を分担してしまうこのシステム、とても重宝しています。
つーか、完全に甘えてるだけでないの、妖怪さんたちという存在に!

しかし、公演が穏やかに順調に評判よく進んでいるのも、水木先生はじめ、もしかしたら本当に妖怪さんたちなど…いろんな見守りがあるからなのでしょうね。

もしそういった見守りを具体的に見ることができる力があるなら、ちょっとうらやましい気もしますが、そういった能力は私には一切ありません。

ただ数日前、チケットの申し込み用紙を書いていたら、前川さんが「おはようございます」と、ひょこっと覗くように挨拶してくれた時に、「ああ…前川さんは僧侶だった時があるな…」と突然思ったのです。

舞台袖でよく一緒になるイキウメ・浜ちゃん(浜田信也さん)に、「前世とかあるなら、前川さんは僧侶だった時があるのかなぁ」と話しかけると、「そうですよ」と当たり前かのような返答。

なによ…イキウメさんたちって…そういう会話が日常なのかしら…。
あるかわかりゃしない謎めいた前世への質問に対して、「昼寝たら、夜寝られなくなるよね」「そうですよ」くらいの日常性じゃないのよ…。

ちなみに浜ちゃんは前世、ヨーロッパの靴職人だったと言われたことがあるそうです。
「そういえば、若い頃スニーカーショップでバイトしてたことある!」
と言ってましたが、もしそれが前世を紐解く方程式だとしたら、私の若い頃のバイトといえば、煮立ったかんぴょうを500gずつ分けるバイトです。

もうちょっと華やかな前世、ちょうだいよ!

いや…でも、初めてのバイトだったにもかかわらずすぐに、掴んだ感覚だけで500gずつ分けることができたのです…あながち…間違ってないのかもしれない…若い頃のバイト=前世説…。

そういえば前川さんとは、切り干し大根などの乾物に関してキラキラとした喜びを感じる共通点があるのも、前世でかんぴょうを通した交流があったのかもしれません。

なんだい、かんぴょうを通した交流って…。
もうちょっと華やかな交流、ちょうだいよ!

ということで今回は、遠い前世に地味な交流があったかもしれない、前川さんからのご相談です。

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こんにちは。
のぶえさん、お疲れさまです。
本番を重ねる忙しい時期に人生相談までさせていただき恐縮です。
さて、僕はお芝居のアンケートを読む方です。
今ご一緒してる「ゲゲゲの先生へ」のアンケートも、初日からすべて読んでいます。嬉しいものですね、観劇直後の思いがあふれる直筆の言葉というのは。
ちゃんとメッセージが届いたなと喜んだり、あのシーンでこんな思いをする人がいるのかと発見があったりと。
その中に、稀に、私の調べだと0.2%ほどの確率で現れる現象があります。いえ現象というほど大げさなものではないのですが、それはつまり、私のことを前田と呼ぶ方がいるのです。
誤字でしょうか、それともそもそも前田と認識しているのでしょうか。イキウメの公演でもほぼ同じ確率で遭遇します。
しかもほとんどが肯定的な文脈で登場するのがまた辛いです。
「イキウメの前田さんの作品が好きです」やら
散々褒めた挙げ句「まさに前田ワールドですね」
などと書かれると、おかしいな、この人僕のこと好きなのかな、興味ないのかな、とグラグラします。
こんなのもありました。
一言「やっぱり前田さんの本は面白い!」
……えっと、そうか、五反田団観に行かなきゃ。
そうです、演劇界には同世代で前田司郎という天才がいます。
なるほど前田さんとごっちゃに、いや作風も違うし、演劇好きならそこは間違えないでしょう。
とはいえ前田さんへの敗北感すら感じてしまうわけです。
Twitterの感想などでも時々見かけます。
どうしたらいいでしょうか。
そろそろ前田にすべきでしょうか。

前川知大(劇作家・演出家)

*****

シンパシーを感じる深刻なご相談、ありがとうございます。

私もよく、峯村リエさん、平田敦子さんだと思っていただけることがあります。大好きで、とても尊敬している先輩方なので、とても光栄なことです。
光栄ではありますが、先輩方に対しては池谷ごときが畏れ多いですし、やはり気持ちがグラグラしますよね。

そして、前川さんのおっしゃるように、ほぼほぼ肯定的な文脈に出現する場合が多く、自分であって自分でない人が肯定されている…喜びと寂しさが同居する不思議な感覚になりますよね。

でもきっと、「前田さん」と書いた方は、まぎれもなく前川さんのことを前田さんだと思ってしまっているわけですし、ある日「前田さんは前川さんだったんだ!」という衝撃を受けるような出来事がないと、きっと上書きされないことでしょう。

そうなると、せめて、同じくらいの割合で、前田さんも前川さんと呼ばれているのだとしたら、自然界の均等がとれますね。実際はどうなのでしょうか。

しかし、そんな統計が取れるはずもありませんし、今後もそうしたグラグラした感情に振り回されるのもしゃくです。
どうですか、よく混同される人々を集めて、攪乱フェスをやろうではありませんか。

作・演出:前川知大 前田司郎
出演:峯村リエ 平田敦子 池谷のぶえ

なに!? 1人だと思ってた人が、2人いたの!?  3人もいたの!?
と思っていただけるかもしれませんし、なんなら役者が3人も出ているのに1人芝居だと思ってもらえるかもしれません。

ただ、この公演で回収したアンケートをどこまで信じられるかが問題です。なんならパラレルワールドでしょう。
フェスの開催を後悔する未来が垣間見えます…やはり、フェスは見送りましょう。

現実的に考えて、その作品を素敵だと感じて下さった純度の高い想いだけすくって我々の体内に取り込めるよう、こちら側の修行が必要なのかもしれません。
前川さんの作品を素敵だと感じると同時に、前田さんの作品も素敵だと思っていることになる、演劇界としては素敵な倍々ゲームです。

今回の「ゲゲゲの先生へ」お稽古初期のディスカッション時、「妖怪という存在は自然に近いかもしれない」という話題になり、「だとしたら、なぜ自然(妖怪)は時として、悪いことをしていない人の命も奪ったりするのだろうか?」的な質問を前川さんにしたところ、「人間界だけではない、もっととても広い世界でのバランスというものがあると考えてはどうだろうか」と言っていて、なるほど! と思ったものです。

前川、前田問題も、人間界を超えて、演劇界でのバランスと思えば、いい作品がたくさんできてよかったね! さあ! 祭りだ! みたいな気分になってきます。

とはいえ、そう思い切れないのが人間の煩悩です。
これはもう、かつて僧侶であった前川さんの、今世での修行のひとつです。
「前」さえ一緒なら、もうなんでも受け入れていきましょう。
「後」とまで書かれたら、またいつでもご相談ください。


■ラッキー待ち受け
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今回演じさせていただいている「コケカキイキイ」です。
なんなんでしょう、この独特のかわいらしさ。
前川さんとは、同じ大学出身で、私が所属していた演劇サークルの関係者が「イキウメ」創立メンバーだと聞いています。かんぴょうのご縁が今世にもつながりましたね。
気が向きましたら、来世でもお会いできますように。身体のどこかに印つけておきます。かんぴょう形の痣とか。

■前川さんの今後の予定
「ゲゲゲの先生へ」
原案:水木しげる
脚本・演出:前川知大
東京公演10/8~21@東京劇術劇場プレイハウス

10/27からツアー公演開始!
松本10/27~28、大阪11/2~5、豊橋11/9~11、宮崎11/14、北九州11/17~18、新潟11/22~23

カタルシツ演芸会「CO.JP」
作・演出:前川知大×安井順平
12/19~28@六本木スーパー・デラックス


【筆者プロフィール】
pro_iketani 
池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]
【舞台】
「ゲゲゲの先生へ」(原案:水木しげる、脚本・演出:前川知大)
10月21日(日)まで   
東京芸術劇場 プレイハウス

10月27日(土)~28(日) まつもと市民芸術館 主ホール
11月2日(金)~5日(月) 森ノ宮ピロティホール、
11月9日(金)~11日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
11月14日(水) メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場) 演劇ホール
11月17日(土)~18日(日) 北九州芸術劇場大ホール
11月22日(木)~23日(金・祝) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場   

【テレビドラマ】 
TBS「中学聖日記」
毎週火曜22時~放送中


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