むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

真夏から携わってきました、こまつ座「円生と志ん生」がいよいよ千穐楽をむかえました。

いやぁ…暑い夏でした。
もうかれこれ46年間夏を経験しているわけですけれども、毎回よくあんな季節を乗り超えて生きてきたな…やればできるんだな…人間ってすごいな…夏のおかげで、秋になるころにはめっきり人間賛歌です。

そんな暑い夏の全てを費やしたお芝居でしたが、今回なんと、お稽古期間&公演期間を通して、一度も泣いておりません。

いや、正確には、ノンフィクション番組を見たり、動物や人間の赤ちゃんの動画やらを見ては泣きましたが、お稽古がつらいとか、人間関係がつらいとか、人生がつらいとか、そういったことで一度も泣くことがありませんでした。

すごいことです。

一作品の期間にたいていは、ビービー泣きます。
お酒を飲んだ帰りなどは心が弱り、特にビービー泣きます。

お芝居でギャランティーをいただいているのか、泣いてギャランティーをいただいているのかわからないほどの比率の時もあります。

そんな時に比べたら、今回は快挙といってもいいでしょう。
毎回よくあんな泣きながら乗り超えて生きてきたな…やればできるんだな…人間ってすごいな…めっきり自分賛歌です。

そんな、こまつ座「円生と志ん生」と交差するようにして、シアターコクーン「24番地の桜の園」のお稽古もはじまりました。

今回も一度も泣くことなく、引き続き快挙を目指したいと思いますが、そんな現場で頼りになる先輩からのご相談です。

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この年齢になると、なかなか相談する相手もいなくなり、誰か相談にのってくれる人はいないものかと途方にくれていたところでした。よかった。こんな夢のようなところがあったんですね。なんでもいいという事でしたので、私の行き場の無い悩みの相談にのってください。



途方に暮れているその1

◎先日、打ち合わせをしていると私のテーブルの上に縮れた毛が一本。
まさかこれは「あの毛?」このところ私のところに縮れた毛が寄ってきてるようです。どうしたらいいでしょうか。



行き場のないその2

◎このところ、胸が大きくなってきました。

おじさんにもブラが必要なんじゃないかと悩んでいます。「天使のオジブラ」というのを考えました。どうしたらいいでしょうか?


途方に暮れてるその3

◎鼻毛に白髪が出て来ました。
染めるべきか抜くべきか。どうしたらいいでしょうか?



行き場のないその4

◎生まれ変わっても男になりたいと思っております。でも、それはワガママなのかもしれないと思っています。どうしたらいいでしょうか?



途方に暮れてるその5

◎池谷さんが稽古が終わると風のように帰ってしまいます。引き止めるにはどんな罠が必要なんでしょうか?



その6

◎朝の献立がなかなか思いつきません。

どうしたらいいでしょうか?



その7
◎
「幸せ」ってなんでしたっけ。

どうしたらいいでしょうか?

まだまだ池谷さんには相談に乗ってほしいのですが、今回はこの辺で。

どうぞよろしくお願いします。



「24番地の桜の園」で共演させて頂いている

大堀こういちでした。

大堀こういちさん(俳優)

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途方に暮れているその1

◎先日、打ち合わせをしていると私のテーブルの上に縮れた毛が一本。
まさかこれは「あの毛?」このところ私のところに縮れた毛が寄ってきてるようです。どうしたらいいでしょうか。
→私も、縮れた毛のフリーダムさについては長年疑問に思ってきました。やつらは大概「下着」という檻の中にいるはずなのに、なぜか床の片隅に集っていたりします。しかし、机の上にまでなんて、アクティヴですね。
いったいやつらは、檻の中からどのようにして脱出してくるのかは本当に謎ですし、一度科学的に追跡した番組などを見てみたいものですが、やつらの縮れを生じさせるのは女性ホルモンとされ、更年期を境に縮れを失い直毛化するそうです。これから先の高齢化社会、もうめったに出会えなくなるものなのかもしれません。
きっと、やつらがいる場所は、若者がたくさん集っていた場所なのです。一本一本がノスタルジーなのです。そして、やつらの生え変わりとともに、若者たちが成長していった証なのではないでしょうか。我々も、いつまでもやつらを縮れさせ続けたいものですね。



行き場のないその2

◎このところ、胸が大きくなってきました。

おじさんにもブラが必要なんじゃないかと悩んでいます。「天使のオジブラ」というのを考えました。どうしたらいいでしょうか?
→少し前に男性のブラについて世間がざわついた記憶がありますが、大堀さんの元へもついにその風が…。いまや楽天などでも気軽に買えるようですし、なんなら一度お試しになってみるのも良いかもしれません。女性の端くれからの印象ですが、ブラによって生活のオンオフが区切られる利点もあります。しかし、やはりおじさまには天使ではなく、ちょっとワルい感じでいていただきたいので、レースやシルクなどではなく、一見胸毛に見紛うブラなどはいかがでしょうか。これなら、更衣室で着替えをする際にも、「ああ、大堀さん毛深いんだな…」と思われる程度で済みます。
それはさておき、男性でも女性ホルモンの数値が大きくなると胸が出てくる場合もあるようです。そして、肝臓の状態が悪いと、増加した女性ホルモンを分解できずにお胸が出てきたりすることもあるそうです。お身体お気を付けください。



途方に暮れてるその3

◎鼻毛に白髪が出て来ました。
染めるべきか抜くべきか。どうしたらいいでしょうか?
→私も最近はめっきり白髪祭りです。頭髪などは、1ヶ月に1回は染めないと根元が気になるようになってまいりました。その他の箇所も祭り囃子が聞こえ始めております。初めの頃は、このイタチごっこがこの先ずっと続くのか…と悲しい気持ちになっておりましたが、最近では雪に思えてきました。白髪を見つけると、「あら、今年も…」みたいな気持ちです。雪でなくともいいと思います。桜でも、お金でも、自分がいままで頑張って生きてきたから歳とっちゃったんだわ…という愛おしい対象として、ぜひ鼻毛の白髪を愛でてあげてください。男性は、白髪によって色気の効果も出ますので、むしろ奴らを利用してやってください。


行き場のないその4

◎生まれ変わっても男になりたいと思っております。でも、それはワガママなのかもしれないと思っています。どうしたらいいでしょうか?
→これはもう、気合しかないように思います。今世でどんな偉業を残したとしても、じゃあそのご褒美にといって来世に性別を選択できるわけではないので、もうなにも手段がない場合は気合です。そして、私は生まれ変わっても女性になりたいと思っていますが、なぜ大堀さんがそんなに男性がよいのか、今度教えてください。その内容によっては私も来世、男性に生まれ変わりたくなると思いますので、大堀さんが男性に生まれ変わる席をとりあうライバルになるかもしれません。やはり、もう、お互い気合です。



途方に暮れてるその5

◎池谷さんが稽古が終わると風のように帰ってしまいます。引き止めるにはどんな罠が必要なんでしょうか?
→前記もいたしましたが、お芝居ごとにビービー泣くほど人間に苦手意識があるため、特に大勢の現場などは「私がいたって意味がない…」と思ってしまいがちです。今回も、まだまだお稽古初期なので、なるべく早く自宅で自分を取り戻したい感でいっぱいなのです。とはいえ、おしゃべりしたり飲みたい気持ちがないわけではありません。罠としては、階段ごとに美味しそうなものを置いておく…などが有効ですが、私より先にほかの生き物が捕獲される可能性が高いのでお勧めできません。余談ですが、先月高田聖子さんからご相談いただきましたアライグマ捕獲について、「キャラメルコーンをエサにしたら捕獲された」とのご報告がありました。美味しそうな罠ですと、私より先にアライグマが捕獲される可能性が高いのです。
現実的には、お稽古場で大堀さんと私の位置がものすごく離れているのも原因ですよね。だんだん、だましだまし、近づいて行くようにしてみます。そしたら、机の上にお互いそっとドングリを置いてみたりして、「今日は飲みに行きたいんだ…」みたいな合図をつくりましょう。



その6

◎朝の献立がなかなか思いつきません。

どうしたらいいでしょうか?
→これは、やっとまっとうな回答ができるご相談です。
土井善晴さんの「一汁一菜でよいという提案」という本を差し入れでいただいたのですが、「朝食はごはんと、お味噌汁と、お漬物やこんぶや納豆などごはんに添えるもの、この3つだけでよい」という、とても真摯でシンプルな朝食論です。お味噌汁は、お湯にお味噌を溶けばもうそれはお味噌汁なのであって豪華な具を思案する必要もなく、おかずを用意するのが苦痛であるのならば、お味噌汁に何でもその時あるものを入れてしまい、具沢山お味噌汁にしてしまえばよいというものです。私も、毎朝何を食べるかが楽しみであると同時に、前日や起きた時にあれこれ考えるのも面倒だったのですが、最近すっかりこのシンプルな考え方を実践していると、前日や朝に考えることがひとつ減って気が楽です。それに、具沢山のお味噌汁はなんとなく幸せな気持ちになります。そして、その時々にあるものを具にすることで、過去も未来もないような、今だけがあるような、なんだか不思議な安心感も感じるようになってきました。おすすめです。
でも、朝の献立をお考えなんて、素敵な旦那さん&お父さんですね!


その7

◎「幸せ」ってなんでしたっけ。

どうしたらいいでしょうか?
→私が大堀さんにお聞きしたいくらいですが…「幸せ」って、感じる時は一瞬で、それが過去のものになると、「幸せだったな…」というものに変化しますよね。人はきっと「幸せだったな…」がどんなにたくさんあったとしても、「幸せ」って感じる新しい一瞬を常に求め続けてしまうのだと思います。でも、幸せって、結局はとても地味なものなのじゃないかと、最近思います。色にしたら白や茶色です。ごはんやお味噌汁みたいな色です。実はずっと自分のまわりにあったりするのに、雲みたいに当たり前だと思ったり、土みたいに踏みつけていたりするんだろうな…とも思います。ある日何かの出来事で自分の中の視点が変わった時に、あれは幸せだったんだ…と気づけるものが、本当の地味な幸せなんだろうな…そして本当に気づきにくかったりするのだろうな…というのが、現時点での池谷の幸せ考です。きっといまも幸せなんだな…とぼんやりとした暖かさを感じながら生きていけたら、幸せですね。



もうなんだか、大堀さんと朝まで差し飲みしたような気分になってきました…。
また何か浮かびましたら、お酒の席で。

ラッキー待ち受け
池谷コラム写真

以前、「飲みに行きたいのに断られたらショックなので誘えない」人たちばかりが集まった稽古場で池谷が考案した、合図です。事前に小石をいくつか用意しておき、飲みたい人はそっと輪ゴムの中に小石を置いておきます。小石が1個のままだった場合、誘ったが断わられるというダメージをうけないままそっと帰れますし、小石が2個以上だった場合、誰かしら飲んでくれるということです。このシステムは特許がとれるんじゃないかというくらい画期的だったと思うのですが、その後どこの現場でも見かけたことがありません。いまのうちに特許を取りたいです。

■大堀こういちさんの今後の予定
シアターコクーン・オンレパートリー2017「24番地の桜の園」
作:アントン・チェーホフ
翻訳・脚色:木内宏昌
演出・脚色・美術:串田和美
11/9~28@Bunkamuraシアターコクーン
他、松本公演、大阪公演あり

フォークシンガー小象HP


【筆者プロフィール】
pro_iketani 

池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]
【舞台】 
シアターコクーン・オンレパートリー2017「24番地の桜の園」
(作:アントン・チェーホフ、翻訳・脚色:木内宏昌、演出・脚色・美術:串田和美)
11月9日(木)~28日(火) Bunkamuraシアターコクーン ほか、松本・大阪公演あり



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