むしろこっちが人生相談したい気持ち満々のコラム、「池谷のぶえの人生相談の館」です。

今年最後の舞台、「24番地の桜の園」が開幕しました。
今年は舞台を4本…駆け抜けましたなぁ…。
来年は舞台を2本…半分じゃないっすか…。
どうしてこう、お仕事というものは平均的に穏やかにやってこないものなのでしょうね。

嵐のようにズザザーッとやってくるときもあれば、凪のようにピタリと何もこなかったりもする。

いや…考えてみれば、人生なんて平均的に穏やかな時などめったにありゃしないですね。平均的に翻弄されているものです。

現在公演中の「24番地の桜の園」も、自分にとってはまたまた出会ったことのない新鮮な現場であります。

演出の串田さんとご一緒させていただくのも初めてですし、ここはひとつ、いままで自分の国(自分の芝居)で使っていた通貨(やり方)は持たないで、新しい国に無一文で飛び込んでみよう! という志でお稽古をはじめたものの、「自分」というものはどこまでもくっついて来るものですね。

せっかく自国の通貨は持ってこなくとも、照れや、恥じらいや、かっこつけや、合理的な考え方や、自尊心やらの、無駄な装飾品はつい手放せず持ってきてしまう。やっかいであります。

そんな中、この方は、自国の通貨も、装飾品も持たず、なんなら全裸で世界中を旅できるのではないか? という偉大な先輩からのご相談です。

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①僕はどうしてもふざけてしまうのですが、どうしたらいでしょうか?

②僕は池谷のぶえさんのファンで、初めての舞台共演なのに、からみがなくてガッカリしています。この胸のモヤモヤをどうしたら良いですか?

③で、リアルな相談ですが、街にいると見る人見る人、知り合いかなと思ってしまいます。そのせいで、よく店員さんに「あれ? 初めましてじゃないですよね?」と声をかけ、けげんな顔をされます。僕は変でしょうか?

④僕は、落ち着きないですか?

八嶋智人さん(俳優)

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八嶋さんとのはっきりした出会いは覚えていないのです。
小劇場界の交流の中でふわ~っと出会って、いつのまにかふわ~っとお世話になりまくっていますね。

でも、20年近くふわ~っと交流してきたのに、いままで一度もきちんと共演できたことがなかったのですよね。

③で、リアルな相談ですが、街にいると見る人見る人、知り合いかなと思ってしまいます。そのせいで、よく店員さんに「あれ? 初めましてじゃないですよね?」と声をかけ、けげんな顔をされます。僕は変でしょうか?

よく人間には、何度も輪廻転生してきた人と、まだ数回しか転生していない人や、初めて生まれてきた人がいる…とか言うではないですか?
それに倣うならば、八嶋さんはあきらかにいま地球上にいるだいたいの
人々とどこかの人生で出会ってるくらい、何度も転生を繰り返しているのではないでしょうか。

もうきっと、八嶋さんの中ではみんな本当に知り合いなんだと思います。
初めて出会った人の家に行ったとしても、ササッとカギを開け、そこの住人がいつも置いているカギ置き場にジャラッとカギを置いて、そこの住人がいつも座っているであろう席の一番近くにストンと座ることができる…そんな能力が、八嶋さんにはあるのだと思います。

すぐにでも立派な大泥棒になれそうだな…とも思いますし、なんなら私が勝手に思い描く八嶋さんの性質はルパン三世に似てますね。
そう考えると、カムカムミニキーナの松村さんが銭形警部に思えてきました。そうなると、不二子ちゃんは奥様でしょうか。

①僕はどうしてもふざけてしまうのですが、どうしたらよいでしょうか?

そして八嶋さんには、不二子ちゃんに襲い掛かる時のルパンのように、パンツをスパーンと脱ぐのが上手なイメージがあります。

稽古中、いろんなことに興味を示し乗っかっていく八嶋さんに「どうしてそんなにいろいろなことに興味がわくのですか?」と尋ねると、「その時鳴った音や、声や、出来事や、そうしたことにとにかく身体が反応してしまうのだ」と言っていましたね。

私は生きづらい人間なもので、生きやすくなるためのわりといろんな手段をためしてきましたが、よく出会うのは「過去でも未来でもなく、その瞬間を生きろ」的な言葉です。

八嶋さんはまさしくそう生きているのですね。
そして、八嶋さんはふざけてしまったな~と思ったことでも、周りにとっては救いになっていることもたくさんたくさんあると思います。

④僕は、落ち着きないですか?

地球上のあらゆることに身体が反応してしまうのですから、そりゃ落ち着く方がおかしいです。

今回、稽古場でも席が近かったので、出会って以来初めてじっくり八嶋さんを観察することができましたが、常に何かをするか、何かしゃべっていましたね。
大堀さんに「ちょっとは考え事とかしたら!?」と言われて、2秒くらいだけ考え事をしていた姿を見て、これはもう素晴らしい落ち着きのなさだ! と確信しました。

けれども、いざ八嶋さんが中心となって何かを動かす…という場面になると、誰よりも落ち着くのはなぜでしょうか。

「にんじんだ! にんじんだ! わーい!」と飛び跳ねていたウサギのようだった状態から急に、崖に立つ一匹の虎のように霧をまとい、まわりとの温度を数℃下げる体勢に入る。そして、チェスのように的確に駒を進める。

もう、ほら、ルパン三世ですよ。
もう、ほら、八パン三世ですよ。

②僕は池谷のぶえさんのファンで、初めての舞台共演なのに、からみがなくてガッカリしています。この胸のモヤモヤをどうしたら良いですか?

ほんと、初めての舞台共演ですね。
そして、殆どからみがありませんね。

しかし絡みはないものの、お稽古場でも近くの席で、こんなにもがっつりと同じ時間を共有しているのは初めてで、いままで私が勝手に八嶋さんに抱いていたイメージとは違うものもたくさん見えてきて新鮮です。

なんだか、八嶋さんにはいつも頼っていいような気がしてしまっていて、何かと寄りかかってしまってきましたが、いざ八嶋さんが困った時や癒されたい時や楽しみたい時などに、何一つ力になれない自分の非力さを実感しています。

幸い、今の現場では癒しになる方も何人かいるようですし、先日は八嶋さんと丁々発止に渡り合える小池の栄子ちゃんも観劇に来てくれ、それはそれは楽しそうな八嶋さんを見ることができて、本当によかったです。

私はすぐに地蔵のように外界をシャットアウトしてしまい、何も力になれず、自分のことに精一杯な人間で、本当にすみません。

もし転生して、もう一度役者人生を歩くとしたら、生まれ変わってみたい人生は、女性だったら木野花さん、男性だったら八嶋さんなのです。

どんな景色が見えるのでしょう。
きっと、地蔵の私には思いもよらない景色が見えているような気がするので、憧れてしまうのです。

現在やっている舞台「24番地の桜の園」の構成に似せて、ご相談をシャッフルしてお答えさせていただきました。

いいえ、答えというより、八嶋さんと出会ってから今日までの、記憶と懺悔です。

ラッキー待ち受け
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八嶋さんからいただいた、金箔名刺。金沢の金箔職人さんからいただいたそうです。スマホケースに入れておいたら、お稽古運があがりました。なんだ、お稽古運って。人生相談の館始まっていらいの、本当に待ち受けらしい待ち受け画面です。

■八嶋智人さんの今後の予定
シアターコクーン・オンレパートリー2017「24番地の桜の園」
作:アントン・チェーホフ
翻訳・脚色:木内宏昌
演出・脚色・美術:串田和美
11/9~28@Bunkamuraシアターコクーン
他、松本公演、大阪公演あり

カムカムミニキーナ2018年春公演@座・高円寺1

BS朝日『百年名家』

NHK『チョイス』

テレビ新広島『そ~だったのかンパニー』

テレビ愛知『極上ライフ 大人の秘密基地』


【筆者プロフィール】
pro_iketani 

池谷のぶえ
いけたにのぶえ94年より04年の解散まで劇団「猫ニャー」の劇団員として活動。解散後は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作品、NODA・MAP、蜷川幸雄演出作品など数多くの舞台に出演。

[出演情報]
【舞台】 
シアターコクーン・オンレパートリー2017「24番地の桜の園」
(作:アントン・チェーホフ、翻訳・脚色:木内宏昌、演出・脚色・美術:串田和美)
11月9日(木)~28日(火)  Bunkamuraシアターコクーン 
12月2日(土)~3日(日)  まつもと市民芸術館
12月8日(金)~10日(日)  森ノ宮ピロティホール




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